【Scope3算定の壁を越える】データ収集の課題と精度を高める実践ステップ完全ガイド

Scope3排出量の算定は、サプライチェーン全体の脱炭素化を推進する上で不可欠な取り組みですが、多くの企業がデータ収集の困難さに直面しています。取引先からのデータ入手、算定範囲の特定、精度の確保など、Scope1やScope2とは異なる複雑な課題が存在します。本記事では、Scope3算定における具体的な課題から、データ収集プロセスの設計方法、継続的な改善ステップまで、実務担当者が実践すべきポイントを解説します。

Scope3算定が注目される背景と企業に求められる対応

Scope3排出量は、企業のバリューチェーン全体における間接排出を対象としており、多くの企業において温室効果ガス排出量全体の70パーセントから90パーセントを占める重要な領域です。Scope3が注目される背景には、国際的な脱炭素の潮流があります。2015年のパリ協定以降、企業に対してサプライチェーン全体での排出削減が求められるようになり、Scope1やScope2だけでなくScope3の管理も不可欠となりました。投資家の視点では、ESG投資の拡大によりScope3排出量の開示と削減計画が企業評価の重要指標となっています。CDPやTCFD提言では、Scope3の算定と開示が推奨されており、2023年に公表されたISSB基準では、重要性が高いScope3カテゴリーについて開示が求められています。さらに、サプライチェーン全体での脱炭素を目指すグローバル企業が増える中、取引先企業に対してもScope3データの提供を求める動きが広がっています。日本でも、金融庁が公表したサステナビリティ開示基準において、Scope3の開示が段階的に求められる方向性が示されています。企業に求められる対応として、まずScope3の15のカテゴリーの中から自社にとって重要なカテゴリーを特定し、算定体制を構築することが第一歩です。そして、データ収集の仕組みを整備し、継続的に算定精度を向上させながら、削減目標の設定と施策の実行につなげていくことが求められています。

Scope3算定における最大の壁「データ収集」の実態

Scope3算定において最大の課題となるのが、バリューチェーン全体にわたるデータ収集の困難さです。Scope1やScope2は自社が直接管理するデータで算定できますが、Scope3は取引先や顧客など外部のステークホルダーからデータを入手する必要があります。特にカテゴリー1の購入した製品・サービスでは、数百から数千に及ぶ取引先から原材料や部品の排出量データを収集しなければなりませんが、多くの取引先は自社の排出量を把握していないか、把握していても提供できる体制が整っていません。中小企業の取引先では、環境データの管理体制自体が存在しないケースも多く、依頼しても回答が得られない状況が頻発します。カテゴリー3の燃料およびエネルギー関連活動や、カテゴリー4の輸送・配送では、物流事業者から燃料使用量や輸送距離のデータを入手する必要がありますが、複数の物流事業者を経由する場合や、混載便を利用している場合は、自社分のデータを切り分けることが困難です。カテゴリー11の販売した製品の使用では、顧客がどのように製品を使用しているかのデータが必要ですが、これを直接収集することは実質的に不可能に近いです。

Scope3データの精度が低下する主な原因とリスク

Scope3算定の精度が低下する主な原因として、まず一次データの不足が挙げられます。取引先から実際の排出量データを入手できず、産業平均の排出原単位を使用すると、実際の排出量との乖離が大きくなります。次に、算定範囲の不明確さも精度低下の原因です。どの取引先や活動までを算定対象に含めるかの判断基準が曖昧だと、年度間で一貫性が失われ比較可能性が損なわれます。また、データの二重計上や漏れも発生しやすく、例えば物流をカテゴリー4で計上したものを、取引先がカテゴリー1に含めて報告してくると重複が生じます。排出原単位の選定も精度に大きく影響し、古いデータや海外の原単位を不適切に適用すると、実態とかけ離れた結果になります。これらの精度低下がもたらすリスクは深刻です。まず、開示した数値の信頼性が疑われ、投資家やステークホルダーからの評価が低下します。第三者検証を受ける際に、データの根拠が不十分として指摘を受け、修正が必要になる場合もあります。

Scope3算定の精度を高めるためのデータ収集プロセス設計

Scope3算定の精度を高めるには、体系的なデータ収集プロセスの設計が不可欠です。第一ステップは、重要性評価により優先的に取り組むカテゴリーを特定することです。全15カテゴリーを一度に高精度化するのは現実的でないため、排出量が大きいカテゴリーや削減余地が大きいカテゴリーに絞って精度向上を図ります。第二ステップは、一次データ収集の対象となる主要取引先の選定です。購入額や取引量の上位80パーセントをカバーする主要取引先を特定し、これらの企業から優先的にデータ収集を進めます。第三ステップは、取引先向けのデータ提供依頼書とテンプレートの作成です。依頼書には、なぜScope3データが必要なのか、どのようなデータをどの形式で提供してほしいかを明確に記載します。テンプレートは、取引先が記入しやすいよう簡潔な設計とし、必須項目と任意項目を区別します。第四ステップは、取引先とのコミュニケーション体制の構築です。購買部門や営業部門と連携し、日常的な取引関係の中でScope3データの提供を依頼できる関係を築きます。第五ステップは、回答率を高めるためのインセンティブ設計です。データ提供に協力的な取引先を優良サプライヤーとして評価したり、削減支援を提供したりすることで、協力を促進します。第六ステップは、収集したデータの品質チェックと補完です。明らかに異常な値がないか確認し、不足しているデータは排出原単位で補完するといったルールを明確化します。これらのプロセスを文書化しマニュアル化することで、担当者が変わっても一貫した精度でScope3を算定できる体制が整います。

Scope3算定を継続・高度化するための実践的な改善ステップ

Scope3算定を単発の作業で終わらせず、継続的に精度を高めていくための改善ステップが重要です。第一の改善ステップは、一次データのカバー率向上です。初年度は主要取引先の30パーセントから一次データを収集できたとしても、翌年は50パーセント、3年目には70パーセントというように段階的に拡大していきます。一次データが増えるほど算定精度が向上し、企業の実際の取り組みが反映されやすくなります。第二のステップは、算定方法の標準化と文書化です。どのカテゴリーでどの算定方法を採用し、どの排出原単位を使用するかを明文化し、年度間の一貫性を確保します。算定方法を変更する場合は、その理由と影響を記録し、過年度の数値を遡及修正するかどうかも判断基準を設けます。第三のステップは、取引先との協働体制の強化です。単にデータを依頼するだけでなく、取引先の排出量算定を支援したり、削減施策の事例を共有したりすることで、サプライチェーン全体での削減を推進します。第四のステップは、デジタルツールの活用です。Scope3算定専用のソフトウェアやクラウドプラットフォームを導入することで、データ収集から算定、報告までのプロセスを効率化し、人的エラーを削減できます。第五のステップは、第三者検証の活用です。定期的に外部の検証機関による検証を受けることで、算定プロセスの妥当性を確認し、改善点を特定できます。これらの改善ステップを計画的に実施することで、Scope3算定の精度と信頼性を継続的に向上させ、企業の脱炭素戦略を実効性のあるものにすることができます。

まとめ

Scope3算定は、サプライチェーン全体の脱炭素化において不可欠ですが、データ収集の困難さが最大の課題となっています。継続的な改善ステップを実施し、デジタルツールや第三者検証を活用することで、Scope3算定の信頼性を高め、実効性のある脱炭素戦略につなげることができます。